物流業界の2024年問題の理解に必須 ことばの正確な理解
前回の記事中には、はっきりとした線引きなどのできなかったことばがあったのではないでしょうか。2024年問題を正確に理解するためには、ことばの正確な理解が必要です。
事業主とトラックドライバー双方の協力
物流業を営む事業主の方なら、重い責任をお持ちのはずです。 物流業界の2024年問題のクリアは、確かに難題でしょう。 しかし、法的理解がなかったばかりに、「知らずに従業員を働かせてしまった」では済まないのです。法的トラブルに発展することを防ぐためにも、最低限の法知識は必要です。 従業員であるトラックドライバーにしても、自身の身を守るために法律の知識を身につけておいて損はないのです。 多くの物流企業にとって、2024年問題は高いハードルとされています。 会社側が法律に反した形で、トラックドライバーを働かせようとするかもしれません。会社側が法律を不勉強なことから、悪意はなくても法律違反を犯す可能性も考えられます。 過労死・サービス残業・残業代未払いなどの結果に至ってしまうことは、物流企業側・トラックドライバー側の双方が決して望んではいないでしょう。物流業界の2024年問題についてお互いが正確に理解していたのなら、物事が悪い方向へ進む前に何らかの手を打つことができるものです。 日本は法治国家です。 一見強い立場にいるかのように思える会社側も、法的なトラブルはできるだけ避けたいと考えています。そして、法律的に物事を考えられるようになれば、双方が最適な法律的対処方法を思いつくようになるものです。 そのためには、法律用語を中心に正確な理解が不可欠です。 「法律」と言われると、「難しすぎる」と最初から敬遠するトラックドライバーの方も少なくないかもしれません。しかし、物流業界の2024年問題を考える上で、必要最小限のことだけでいいのです。 その程度のことであれば、まったく難しいものではありません。“残業”と“時間外労働”
例えば、一般的に使われている“残業”という単語と、前回記事でも頻繁に登場し、法律上でも使われている“時間外労働”ということばは、イコールではありません。確かに‘’残業”という単語の方がなじみ深いかもしれませんが、前回記事で1度も使うことがなかったのはそのためです。 一般的に使われる“残業”という単語では、会社所定の始業時刻と終業時刻が、基準になっていることが多いのではないでしょうか。 始業時刻が午前9:30、休憩時間が12:00から13:00、終業時刻を18:00としている会社の従業員Aさんの場合で考えます。Aさんが遅刻することなく午前9:30に出勤、18:30まで仕事をしたとします。 この場合、一般的な感覚からすると、「Aさんは30分の残業をした」と認識されるかも知れません。 しかし、法律上使われる“時間外労働”ということばでは、“法定労働時間”を基準にします。 労働基準法第32条では、休憩を除いた労働時間を1日につき8時間、1週間につき合計40時間を超えてはならないとしています。これが法定労働時間です。そして、法定労働時間を超過した労働時間が時間外労働です。 すると、Aさんの実働時間は8時間です。従って、時間外労働をまったくしていないことになるのです。休日労働とは
“休日”ということばにも、一般の認識と法律上の定義に多少の差があるかもしれません。 “休日”の意味を国語辞典で調べると大半の国語辞典では、2つの意味が書かれています。 1つ目が“業務や授業などを休む日”、2つ目には“国民の祝日や日曜日”を休日としているものが多いようです。 そして、2つ目の意味を“休日”として認識している人も、少なくないでしょう。 労働基準法では第35条で、休日に関して規定しています。 第1項では、毎週最低でも1回の休日を会社が従業員に与えなければならないとしています。また、同じく第2項では第1項の例外として、4週間に4日の休日を与えることでも問題ないとしています。「法定」とはいうものの、これに沿って“会社が定めた休日”が法定休日です。 法令上、法定休日を日曜日にしなければならない規定はありませんが、日曜日を法定休日としている会社が多いです。 休日労働は、この法定休日におこなった労働のことです。法定休日以外にも法定外休日という休日があります。しかし、法定外休日の労働は休日労働には当たりません。 法定外休日とは、使用者が従業員に与える法定休日以外の休日です。週休2日制が定着した昨今では日曜日を法定休日とし、土曜日を法定外休日としている会社が多く見受けられます。 これは、1日の労働時間を労働基準法第32条第2項ギリギリの8時間とする会社の多いことが関わっています。1日に8時間働かせ、週5日出勤させると、法定労働時間上限の40時間/週(労働基準法第32条第1項)に達してしまいます。従って、法定休日を日曜日とするなら、それ以外の例えば土曜日を法定外休日としている会社が多いのです。 以上のことから、法定外休日を土曜日、法定休日を日曜日としている会社が土曜日や祝祭日に従業員を出勤させたとしても、それが休日労働となることはありません。 前回の記事で、2024年4月1日からは法定休日の労働時間を含めない時間外労働時間を、年間960時間以内にしなければならなくなることを説明しました。今回記事のここまでの内容を踏まえると、下記のケースが違法ではないことがお分かりいただけるでしょう。ことばの意味を正確に知らないと、これを「違法」と勘違いすることもありえます。ちなみに日曜日が休日とされることが多いのは、西暦321年3月7日にローマ皇帝のコンスタンティヌス1世が、日曜休業令を発布、礼拝日としたことから始まっています。 また、イギリス・ポーツマス大学のブラッド・ビーヴン教授によると、土曜日も休日とすることは19世紀にイギリスで始まったそうです。“法定休日が日曜日の物流会社で、日曜日の労働時間も合わせた年間の時間外労働時間が960時間を超えた”